2 〜スラング〜


ウィラルがどうにもなりそうにないので、俺はアジトに戻ることにした。
アミサが旅に出てからというもの、ずっとあの調子だ。
いい加減気合い入れ直させねぇと、あんなザマじゃ、
夜道で後ろから刺されても大人しく殺されそうだ。

様子がおかしくなっているのは、ウィラルだけじゃねぇが、
あいつが一番、目に見えてサボってやがる。

「おい、ワセフ。いい加減テメェの愚弟どうにかしてくれよ。」

アジトに帰ると、4、5人のヤツ等が仕事の打ち合わせをしているらしかった。
入るなり言い放つ俺を、呆気にとられたように見ている。
揃いも揃って気まずそうな顔だ。
俺の口が悪いのには、いい加減なれたヤツ等だから、
単純に、触れられたくない話題だったってコトだろう。
今の現状に我慢できねぇ俺にとっちゃ、知ったこっちゃない。

「…あぁ、そうだな。あとで、話しておく。」

世間話でもするように返し、ワセフは打ち合わせを再開した。
口を開くより前に目を反らしていたことに気付かないほど抜けているわけではないが、
俺は、小さく舌打ちだけして、自分の持ち場に戻った。

相手が、それ以上口論を続ける意志がないことは明らかだ。
他のヤツが相手なら、ここで畳みかけるところだが、
ワセフが相手では、かわされるだけだろう。
アイツとの口ゲンカでは、勝った試しがねぇ。

俺と、同年代かそれより下の何人かは、
アミサに拾われてここにいる。
犬や猫じゃあるまいしと、思わないわけでもないが、
町のガキ共がつるむのと同じような感覚で、
俺達にとっては、それが普通のことだった。

その中でも、ワセフとウィラルの兄弟は古株で、
ここでの生活も、アミサとの付き合いも長い。
その分、実力も伴っているといえる。
弟ウィラルの方は、過保護な兄貴のせいで、時々イマイチだが。

気まぐれで(としか俺には思えないのだが)アミサが旅立ってから、
ウィラルを筆頭に、何人かが腑抜けになった。
ワセフを筆頭に、何人ががやたら働き者になった。
まっとうな家業なら、差し引きしてちょうど良かったかも知れねぇ。

軽く自嘲気味に笑って、俺は考えることをやめることにした。
答えがでている問の理由を、頭の中でこね回しても仕方ねぇ。

「ほっときゃ帰って来るってのに、何を取り乱すことがあるってんだよ。」

アミサの身勝手な気まぐれは、今に始まったコトじゃねぇ。
そして俺達は、大概そのおかげで、
退屈のない楽しい毎日を過ごしていた。

ほんの少し、刺激が減るだけ。
そう考えたら、急に仕事が億劫になった。
こりゃ、ますます、腑抜け共にさっさと働いてもらいてぇもんだ。



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