クラウン





   **********





ざらざらのコンクリートに、
汚れた黒板消しを押しつけたような、
掠れた光の中に、彼は居た。


   こんばんは、オジョウサン。
   こんな所まで、お越しいただくなんて。
   ワタクシなど…


ざらつくような、灰色に近い光の中で、
彼は、目を細めて私を見つめた。


言葉が出なくて、もどかしくて、
私は、何もできないまま、
その場に立って震えていた。


すぅうっと、影を引き延ばすようにして、
彼が私に近づく。

引き延ばされた影が、膜を張るように、
彼の姿が、薄れる。



けれど私は、何もできず、
彼は、そっと私に手を伸ばし、
最期に、触れた手を残して…




   **********











26≪ ≫28
戻る