『私は、ただ、あなたの世界が、好きでした。』
あの人の去ったあと、
あの人のいた場所に、
あの人の背を思い浮かべ、
そっと、想う。
この手には、何もない。
あなたに貰ったもので、形になるものは、
結局何一つなかったから。
でも、それでも、私は、
手を伸ばすことを、
歩を進めることを、知った。
私は、ただ、
あなたの言葉で、
あなたの世界を、
好きになったのです。
その、音の響く世界を、
私は夢見たのです。
もっと側にいられたら、
もっと近づけていたら、
言葉を、交わせたら…
後悔にも満たず、少しだけ思って。
ただ、あなたの世界が好きでした。
その、風の色、空の色、多くの、影と、光が。
かすれた声で、
「さようなら」とつぶやきそうになって飲み込む。
せめて、一言だけは、
あなたを追いかけよう。
最後でも、もしかして、そうでないとしても。
ただ一言。感謝くらいは。