星に願いを未来に夢を…


   まざぁすたぁヨリらばぁぼぉいずヘ
   イトシイキミタチヨゲンキデイルダロウカ

「あぁ、ちゃーんと生きてるよっ!」

淡々と連絡事項を告げる機会音に毒づいて、イスを蹴倒して立ち上がる。
味気ない食事は、満腹感といらだちを、たっぷりと身体にそそぎ込んだ。

   生きてはいる。それだけ。

無機質な声での連絡を受けている間は、窓から見える母星さえ憎々しい。
もともと、感傷に浸るような繊細な感性など持ち合わせていないのだが。

「よぉ。相変わらず不機嫌そうだなぁ、おい。」

微かな起動音と共に、メインスクリーンに見慣れた顔が浮かぶ。

「あぁ、お前の脳天気さと同じく、変わり映えねぇよ。」

スクリーン越しに顔を見合わせ、お互いに苦笑する。
コレもまた、音声連絡と同じく、日課となっている。


結果がわかっていながら、処置を怠ったボンクラ共の予想通り、
俺達の母星は限界の時を迎えた。
正確には、まだ、「迎えようとしていた」なのだろうが、大して変わらない。
母星はぼろぼろで、ボンクラ達は相変わらず、痩せ衰えた星にしがみつき、
怠惰にも、現状に流されて行くだけだった。

何人かのガクシャ達は、すでに手遅れとなった「処置」を諦め、
逃げることを考え出した。すなわち、別の星の開拓だ。
で、今俺がいるのが、移住候補の星の一つ。

逃げることを考えたガクシャ達は、非常に保守的だった。
この星に留まることはできないが、危険なこともしたくない。
で、どうしたかというと、母星に愛想を尽かし、
危険も省みず飛び出すようなバカ共を使ったわけだ。

実際に、自分で来ていて言うのもなんだけどな。


「そっちの調子はどうだ?」

人なつっこく笑って、慧がいう。これもまた日課のようなもの。

「調子がいいなんてコトあったかよ。」

苦笑して答える。コレもまた日課で、慧は満足そうに笑う。

「悪いってコトもなさそうだけどな。輔は。」

「まぁな。今日も無事に生きてるよ。」


俺達がここでするのは、温室よろしく環境の整えられた宇宙船の中で生きること。
調査だのなんだのの難しいことは、ガクシャ達の作った機械が日夜続けているらしい。
俺達は、その機会に支障が出たときのためと、調査が完了したあとの、
この星の環境の最終チェックのためにいるらしい。

1つの星、別々の場所に1人ずつ。数名の、俺達のようなバカ共が、
母星から離れ、母星を見下ろして、この星にいる。
ただ、生きている。

母星との連絡は、通信の関係とかで、あまりとれない。
問題なく伝達できるのは、毎日の電子放送くらいだ。
この星に着いた頃、家族と話しをしようとしたが、
ノイズが酷くてままならなかったと慧が言っていたことがある。
俺達は、母星から離れすぎたのかもしれない。

「外の様子は?何かめずらしいものでもでてきたか?」

「あぁ、そういや、カエルみてぇなのが、窓の端っこの方に張り付いてたっけな…
 そのうち、あのまま干涸らびるんじゃねぇか〜?」

「で、そっちは?」

ひとしきり笑って、聞き返す。
変わったことなど、そうあるはずないのだけれど。

1日のほとんどを、俺は誰かと話して過ごす。
他にすることがないからだ。
最初は誰も彼も、結構まめに連絡を取り合っていたが、
最近では、他人との連絡をろくに取らなくなってきているヤツもいた。

まだ正体も分からないだろうこの星で、それぞれに。
母星に残っている、しがみついている人々の誰よりも怠惰に、
俺達はここで生きている。

ラバーボーイズ…

まだろくに正体も分かっていないこの星に、
愛しの息子と、未来を託し。
遙か彼方に、俺達の故郷は輝く。

   まざぁすたぁヨリらばぁぼぉいずヘ
   イトシイキミタチヨ………

遙か宇宙の彼方から、今日も、機会に変えられた母の愛が届く。

「生きてるよ。」

ただ、生きている。
他に、答える言葉を、俺達は知らない………



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