一期一会 〜風と光と空の向こうへ…





   もどかしいほど ゆっくりな行程と
   ここぞとばかりの 全力疾走
   そして 全てを込めて 大地を蹴って…

   やっと、飛べる 空
   そうしなければ 翔べない
      空…



と、そこまでは覚えている。
行きも帰りも、同じように思ったから、
それは覚えている。

問題はその先だよ。
続きがあったんだ。

帰りの飛行機で、真っ暗な窓の向こうを眺めながら、
そう、都心の明かりが見えるまでの間に、
流れた言葉があったのに…


あの街の、流れすぎる光の渦に、
落としてしまったのか、
飛行機の外の、凍える風に、
さらわれてしまったのか…

そにかく、どこかに置き忘れたか、流されたのか、
続きの言葉が、見あたらない。


あんまり、その言葉の流れが気持ちよくって、
しっかり握っているのを忘れてしまったんだ。


あぁ、こんなことなら、お土産になんて気をとられずに、
手帳は荷物に入れておくんだった。
身軽になろうなんてせずに、手荷物をもう少し大きくしても良かった。

いやいやいや、重い荷物を持って、草臥れた体で乗った飛行機で、
あの言葉が見つかるかどうかはわからない。
両手いっぱいに抱えた眠気、その、ほんのわずかな隙間に、
言葉は流れ込めるだろうか?

あぁ、もう、こうやっていろいろと考えては、
捕まえ損ねた言葉から離れていくんだ。
さっきまで覚えていたはずの、あの言葉の空気がもうわからない。
夜空に流れた、あの言葉は、もう思い出にも残らない。





………あぁ、しまった、
そうこうしているうちに、もう一つ。
僕は言葉を手放した。

そうだよ、あの後、バスの中で、
流れ去る無数の光に紛れて、あの人の言葉と、
そこから生まれた言葉があったじゃないか。

久しぶりに思い出したあの人は、
この街のどこかに、たぶんいて…
そんなことを思いながら、夜の光から流れる言葉を、
僕は確かに聞いていたんだ。

あぁ、あの夜の光と流れた言葉も、
またしばらくは、会えないだろう。


少し寂しくなりながら、
冷たくなった空気の中、
僕の街の、夜空を見上げ、
また、降り注ぐ、新しい言葉を受け止める。


さらさらと、冬の声。
風と、光と、空から、通り過ぎる無数の言葉…



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