風華 〜空に向かえと〜


 眼差しは、
 まっすぐ前よりも少し上。

 秋の、平坦に真っ青な空には、
 冬を思わせる、ライトグレーの雲。
 頂点には、眩い黄金の太陽。

 芯の冷たい風に、
 髪をなびかせて。

 薄桃色の、やわらかな
 無数の小さなカケラを
 纏うように、腕に…


「って、待て待て待て。」

ん?
と、視線を合わせると、
彼女は、心底疲れたという顔をして頭を抱えた。

「なに?」

全くわからない
というふうに聞き返すのは、
ほとんど、故意。
いつものことだけれど。

「…季節感は?」

投げ出すために吐き出すかのように、
改めて彼女が問う。
これも、いつものこと。

「必要?」

満面の笑みで、首を傾げて聞き返すと、
ふぅ。っと、肩をすくめられた。
待て。と、声をかけた直後には、
ここまでの展開も読めていたのだと思う。
そのくらいには、あたしと彼女の付き合いは長いし、
それなりの深さも持っている。

「だって、まっすぐに、 凛として強いってイメージは
 やっぱり真っ青な空で、冷ための風で、
 でもって、前向きだから、日差しは強くて、
 さらに、春みたいな優しさもあったらすてきでしょ?」

ん〜
と、軽く口元に人差し指をあてて、
虚空を見上げている。

「あ、つまり、それね。」

ふっと、窓の外を指さして。
こちらに視線を投げてから、
立ち上がって、窓に歩み寄る。

風に舞う、微かな雪。

「うわ、やられたっ」

言いながら、あたしも後を追う。
上半分がガラスになった戸を出て、
冷たい風に、身をすくめながら、ベランダにでると、
全身で、風を受けるように、
両手を広げて、彼女が笑った。

夏の日差しには及ぶはずもない、
凍りかけの、弱い陽射しの中で。
芯まで冷えた、風の中で。

「こゆことでしょ?」

半分勝ち誇ったように。
何より、嬉しそうにいうから、
イメージでは、もっと暖かい色で…
なんてことを言うのはやめた。

「まぁ、現実のレベルまで引っ張りおろしてくれば、
 こんなもんかもねぇ…」

「まけおしみ」

まだらに灰色の、白みがかった青空を、
冷たい風の中で、二人して見上げて。

「理想どおりとは、いかないけどさ。」
「それでもなかなか、いいもんだよね。」

どちらからともなく、口を開いて笑った。
たぶん今日から、冬の始まる日。



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