〜それでも言葉がこぼれるならば…


ボクの気持ちの、ほんのひとかけらが、
なんだかすてきに見えたので、
大事に、きれいに、飾っておいた。

そのひとかけらを、
ほめてもらえたので、
大事に大事に、喜んだ。

そうして、そのひとかけらを、
誰にでも見えるように飾って、
また、変わらず、ボクは居た。

変わらないつもりの、
ボクはいた。

飾られた、気持ちのひとかけらは、
きれいなまま、そこにあったけれど、
いつしか日に焼けて、色褪せていった。

僕の目には、色褪せて見えた。

もう、いらないや。
その、気持ちのひとかけらは、
置かれたまま、そこに残って、
色褪せていったけれど、
その、気持ちのおおもとは、
ボクの中には残らなかった。

その、ひとかけらの気持ちを捨てるために、
ボクは手を伸ばした。
空気を伝って、震えが感じられる。

かけらが、怖がっているように、
淋しがって、いるように…

ボクは、少しだけ、
その気持ちのひとかけらを
なくしてしまうのが、もったいなくなった。

もう一度、その、気持ちのひとかけらを眺めたけれど、
ボクの中になくなった、その気持ちは、色褪せたままで、
ボクの大事なものには思えなかった。


でも、あのときボクは、
この気持ちのひとかけらを、
本当に大事にしていたね。


この気持ちは、今のボクにはないけれど、
この気持ちのカケラは、
確かに、ボクのものだね。

ボクがそう思うと、
怯えるように、ふるえていたかけらが、
ひょいっと浮かんで、
ぽんっと、ボクの中に入った。

その、思いのカケラは、ボクの中に入っても、
やっぱり色褪せていたけれど、
ゆっくりと、ボクの中に染み込んで、
ぱんっとはじけた。

あの時のボクの気持ちは、
ボクの中にはないけれど。
あの時のボクの思いは、
もう、どこにもないけれど。

はじけた気持ちが、
ボクの中から溢れてくる。
ただ、溢れてくるから、
ボクはまた、言葉を紡いでいく。

この気持ちは、
ここにはないけれど。
この気持ちは、
どこにも、ないけれど。

ボクの気持ちを飾って、
見せるために置いておくことは、
もう、できないけれど。

それでもボクは、
もう一度ボクの中に入った、
今はもうボクにはない、その気持ちのカケラを、
少しずつ、少しずつ、言葉に変えてこぼしてゆく。



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