夏の風、夏の雨。




きぃぃぃりりり
きぃぃりり


夏の日差しが上げる金切り声が、
あんまりうるさくて、僕は天を見上げた。

太陽は、我慢比べで息を止めてるみたいに、
真っ赤な顔でふくれてる。


きぃぃぃりりり
きぃぃりり



「ねぇ、お日さん、
 そんなにむくれるものじゃないよ。」

じっとりと、顔から汗が噴き出してくるのを、
我慢しながら僕は言った。

「もっと力を抜いて、
 楽にしたっていいじゃない?
 そんなんじゃ、あなたもみんなも
 参ってしまうよ。」


じぃりりぢりり
じぃぃりりぢりり


太陽は、僕の言うことなんて聞くもんかとでもいうふうに
よけいにふくれてそっぽを向いた。

むき出しの道の土は乾ききって、
両脇の草むらも、しんと静まり返っている。
日差しと熱と空の太陽以外には、
動くものは何もない。


「ねぇ、だってこんなんじゃ、
 あなたもあんまり淋しいじゃないですか。」

きぃぃりりきゅるりり
きぃぃぃぃりぃりぃ

  『淋しくなんか、あるもんですか。
   こうやって強〜い日差しを振り撒くのが
   夏のあたしの仕事ですよ。
   だぁれも動かなくなったって、
   淋しくなんか、あるもんですか』

きぃぃぃりりり
きぃぃりり



ちょっとこっちを見下ろしてそういうと、
またそっぽを向いて膨れ面。
それでもさすがに疲れてきたのか、
日差しの悲鳴は小さくなった。


きぃぃぃりりり
きぃぃりり

きぃぃぃりりり
きぃぃりり



やれやれ、参ったなと、
帽子を目深にかぶりなおして、
先を行こうとすると、
ほんの小さな太陽の声。


  『でもね、あたしのお仕事も
   今日はそろそろ終わりの時間。』

きぃぃぃりりり
きぃぃりり
しゅるららるりら


日差しの悲鳴が弱まって、
代わりに空から風の音。
振り返ると太陽は、西の空に消えていた。

風が運んだ雨雲に、草木と大地が歓声を上げる。
金切り声を消すように、空気が雨で満たされる。

夏の風、夏の雨、
全力で輝く太陽が、
一日かけて、呼んだ雨。



  『淋しくなんか、あるもんですか。』

ふくれっ面の太陽は、きっとこれが夏の仕事で。
去った後の皆の喜びを、きっと知っていたから。

   きぃぃぃりりり
   きぃぃりり

夏の、あの、ふくれっ面の太陽は、
文句も言わず、そっぽを向いて、
一日仕事で、雨を呼ぶ。



戻る