年の初めに


絶え間なく続いているようなものでも、
離れた点と点を取れば、それは、
お互い全く別のものだったりするわけで…


「ということで、これがあなたの今年です。」


除夜の鐘が鳴り終わる頃、
ほんの気まぐれで散歩にでたら、
目の前に降ってきた天使は、
そう言って、小さな光を差し出した。


「………はぁ。」

我ながら、間抜けな返事ではあるけれど、
どう答えていいかわからなくて、
曖昧な返事しかでてこなかった。


「そして、これが、」

天使が、私に手を伸ばす。

白く、透き通るような、
細くて、きれいな手。

すっと、何の抵抗もなかったものだから、
つい、そのまま見入ってしまった。

天使の手が、
私の体の中から、
一握りの固まりを引っ張り出す。


「これが、あなたの去年です。」

にっこりと、春の日差しのような、
優しい目で笑って、
取り出した固まりを、私に見せる。

「一年、よく頑張りましたね。」

固まりを眺めながら、天使は言った。


「…みて、いたんですか?私を?」

「いいえ。これがあなたの去年ですから、
 これを見れば、わかるのですよ。」


顔を上げて、諭すように、
変わらず優しく、天使は言った。

「さあ、また一年が始まります。
 今年も、よい年でありますよう。」


そういって、溶けるように、
天使は、空へ消えていった。

慌てて目をこすった私の目の前に、
小さな、光が浮いている。


私の、今年。

去年とは、違う色合いの、
去年とは、違う今年。


触れようと手を伸ばすと、
光は、私の中、胸の辺り、
天使が、去年を取り出した所に
すぅっと、引き込まれていった。


   また、一年が始まります。


優しい声が、降るように。
年が明け、年が始まる。


また、一年。

なんだか、いいことが、
増えそうな気がした。



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