回転イスは、くるくる回り続けるけれど、
叫ぶ声は、持ってはいなかった…
泣き叫ぶには、イスは周りを知りすぎてたんだろう。
くるくるくるくる
流れる景色が、変わらないようでいて、
それでも確かに、少しずつ変化していくことを、
イスは、ちゃぁんと知っていたから。
くるくるくるくる
無表情に回る姿を見ていたら、
なんだか、胸が詰まってしまって、
回るイスの背を「がしっ」と掴み、腰を下ろした。
イスは、それでも回り続けようとしているらしく、
右に左にと揺れ続ける。
俺は、しっかりと床に足を着いて踏ん張って、
イスの動きを止めようとしたが、
どうやら、このイスの根性は、相当なものらしい…
俺は、少し足の力を緩め、
イスが左右に揺れるに任せながら、
天井を仰ぎ見た。
「なぁ。」
イスは、左右に揺れるのをやめ、
またゆっくりと回り出す。
くるくる くるくる
「ため息つくくらいは、してもいいと思うぜ?」
くるくる くるくる
くるくる くるくる…
イスは、また、回る速度を緩めていって、
ゆっくり、ゆっくり、静かに止まった…