〜静かな夜とあの声と…


静かな夜に
言葉が放たれる

   聞こえる?
   あの声が、きこえる?

ざわめくように、
風が、耳をかすめたから、
邪魔をされたようで、
少し、嫌な気持ちになったけれど、

   聞こえる?
   あの声が、きこえる?

その、風の声も、
きれいにすきとおっていたから、
眉間に寄せた皺をすぐに消して、
あたしは笑った。

 きこえるよ

ちょっとだけ、立ち止まって、
目を閉じて、風に囁いた。

今はまだ、ただ聞こえるだけだけれど。
呟くように、心の中で付け足す。

静かな夜に、声が響く。
その言葉が、やさしく、やさしく、
夜を包むように。

そっと、肩に手を置かれた気がして、
顔を上げて、前を見た。

 まだいけるね
 きっと、とべるね

やわらかな声を、風が抱え持って、
空へ、月へ、吹き上げる。

 きっといけるね
 いつかとどくね
 あの空へ
 あの月へ
 あの人へ
 きっと、いつか、いつの日か…



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