風になびく長い金髪を、軽く片手で押さえながら、
子供のように目を輝かせて、ケジェイが呼びかける。
「ヤハズ、山が真っ白だよ。」
促されて、山脈を見上げながら、静かにヤハズは答えた。
「あぁ、随分と寒くなってきたな。」
ケジェイは、ことあるごとに、自然に対し、子供のような好奇心を示す。
旅を進めるごとに、季節が変わるたびに、
小さな変化を、目敏く見つけては、
こうして、ヤハズに知らせている。
二人で見る景色、その一つ一つを、指し示すように。
この時間が、いつまでも続くと、
そんな錯覚を覚えるような時が、
ヤハズには、一番の休息の時だ。
「でも…」
ふと、視線を山並みから外し、
振り返ったケジェイが、考え込むように口を開く。
「雪っていうより、雲みたいじゃない?
あのまま、空に上がっていきそう。」
自分の名案に手を打って喜びだしそうな笑顔で、
ケジェイが笑う。
「あぁ…」
空へ昇ってゆく、山の形の雲を思い浮かべながら、
ヤハズは、山並みへと視線を戻した。
冷たく透き通る風が、山から下りてくる。
空は、きぃんと、青く澄んで。
そして、風が、吹き上げた。
山を、雲を、無数の、白を…
「うわぁ、」
歓声を上げたケジェイの声は、あとが続かないまま、
空高く吹き上げる、白い風にさらわれた。
「ホワイト・ドラゴン…」
傍らに立ち、つぶやいたヤハズを、
一瞬振り返り、微笑みかけて。
その、舞い上がる姿に、いつまでも、魅入られるように…
この、永遠に続くかとさえ思われる
様々な景色を、いつまで、こうして見られるのだろう。
「本当に、飛んでいっちゃったね。」
無数の、白き龍の影を見つめたまま、ケジェイがつぶやく。
残された山は、まだらに白く
青い空を背景に、先ほどよりも重そうに見えた。
「あぁ。
…行くか?」
空を行く、雲と同じく、
風に、背を押され流れるように。
進む景色は、共有できる確かなもの。
今は、まだ、二人ともが持てるもの。
いつかどこかに、行き着くまでは…