〜 トキ 〜

   『どんよりと灰色の空を眺めていた』









いつからか、俺は、
灰色の空を見上げていた。



空の色が、いつからこんなに濁ったのか、
どうしても思い出せなくて、
いつまでも、ぼけっと眺めていた。


その灰色が、雲なのか、
煙なのかも、もうわからない。

とにかく、空は濁って、
毎日毎日、どんよりとした灰色が、
俺達の頭上を覆っていた。

遠くから、くぐもった爆音。
それさえももう、聞き流せるようになっても、
空の色に対する違和感だけは、
いつになっても消えない。



あの日から、学校は、戦争しか教えなくなった。
政治家は、戦略しか唱えなくなった。
平和とは、他国への勝利でしかなくなった。


だって、昨日までは…
そう言うと、皆、訝しむような、
不安そうな顔をした。

そうして、その中の勇気ある一人が、
決まってこう言う。「だが、現状はこうなのだ。」
「敵軍に勝たなければ、我々は生きていけないのだ。」と。


いつしか俺は、この世界に慣れていった。
戦争が、日常であることに。
平和が、幻であることに。
過去の現実が、俺の内にしかないことに…



晴れた青空なんて、元から存在しなかったかのように、
どこまでも、重く、澱んだ空を、
俺は毎日、眺めていた。







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