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「掌を見ていると、自分にどれくらいの力があるのか、
わかりそうな気がしないか?」
きょとんと、見つめ返す僕に、
照れたように笑いかけて、
その人は、もう一度、自分の手を眺めた。
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名前すら、知っているわけではない。
きく機会も名乗る機会も、
いくらでもあったけれど、
僕は、名を交わすのを避けていた。
惹かれるような人なら、特に。
いつ、目の前から消えてしまうかわからないから。
同じ物を守るために。
その意識が、この戦地では、
強く僕たちを結びつけている。
大切なものを守るために、
ただ、それだけのために。
彼には、2人の子供がいるときいた。
この手で、確かに抱き上げたのだと。
だから、自分にはその子を守ることができるだろうと、
最後の酒の席で、赤らんだ顔で、
まっすぐに前を見て、彼は言った。
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「この手に、どれだけのものを抱えられるのか。」
手のひらを見つめたまま、彼はそういった。
よい、父なのだろうと、ただ漠然と思った。
この人ならば、大切なもの達を、
守りきることができるだろうと。
「欲を出しすぎれば、
押しつぶされてしまうのだろうな。」
こちらを振り返り、笑ったその顔は、
未来を、予測しているようで、
一筋の不安が、背筋に冷気を送り込んだ。
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掌を見たら、自分にどれほどの力があるか、わかるだろうか?
彼のそれに比べ、ずいぶんと頼りないボクの手は、
なんだか幼くさえ見えて、守るというよりは、
まだまだ、守られる側なのではないかとさえ思えてくる。
この手に、どれほどのものを…
この、頼りない掌に、乗るだけのものが、
どれほど少なかったとしても、
その大切なもの達を、守ることができるなら。
どれだけのものを、抱えられるのか。
どれほどのものを、守ることができるのか。
大切なもの達を、最後まで守った彼の腕に、
どれほどの力があったのか、気が遠くなるほど、
僕の中でその存在を大きくする、彼の強さが、
彼自身の、大切なものを守っていた、
あの、大きな手が、僕の背を押す。
僕のこの手で、彼の大事だったものも守ろうと、
守りたいと思うことは、
押しつぶされてしまうほどに、
欲張りなことだろうか。
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