散り際さえも華やかならば、
それ以上に、何を
望むことがあるでしょう?
そう言って、艶やかに微笑む、
紅い唇が、闇に浮かんだ。
風の強い、春の夜。
それでも、ほころびたばかりの桜は、
なんとか全滅を免れている。
「さようなら。」
綺麗な笑顔を微塵も崩さずに、
彼女は言った。
僕は、何も言えずに、
ただ彼女を見つめていた。
風の強い、春の夜。
散るのが怖いのなら、
蕾のまま、蹲っていなさいな。
そうして、このわたくしが散る様を、
そこから眺めていなさいな。
艶やかに微笑む、紅い唇。
彼女は、僕がここから動けないだろうと知っている。
僕では、動けないだろうと知っている。
風の強い、春の夜。
彼女は、風に散り、天へ舞う。
僕は、風に耐え、根を下ろし留まる。
散り際さえも、華やかならば。
ただその瞬間だけでも、華やかなのならば…
強い風の吹く、春の夜。