〜ただそこにあるがための輝き…


「それでも、世界は、きれいだから」

頭の中にひびき続ける、その言葉を確かめたくて、
くねくねと続く坂道を上って行った。
霧が煙るように、空気は湿って重く、
まとわりつくように感じられた。

「世界は、きれい」

静かに、目を閉じて、言い聞かせるようにつぶやく顔が、
あまりにも、絶対的で、
全ての真理を知っているかのように、幸福そうで…

世界は…世界は………

立ち止まって、来た道を見下ろす。
影のように暗い木々の間に、
微かに街の灯り。
まだ、もう少し…

きれいだから。

くねくねと、道に沿って登りながら、
見晴らしの良さそうなところを探し、
下を見下ろす。
小さな、無数の光…

「世界は、きれいだから」

感動的な輝きはなかった。
ただ、小さな光が、無数にあるだけ。
まばゆい輝きとは思えず、ただ、そこにあるだけの光…
見せるためではない、光の集団…

この程度か、こんなものなのかと、思いながら。
期待していたほどのものではないと、思いながら。
心が、軽くなる。
わだかまって、溜まっていたものを吐き出すように…

「あぁ…」

世界は、きれいなのだろうな…
取り繕った輝きも、ひねくれた汚濁も持たず。
ただ、世界は、きれいなのだろうな。
だから、世界は、きれいなのだろうな。
確かに、世界は、きれいなのだろうな…

浮かんだ笑みは、
彼女のそれに、どれほど近かったのだろうか…



戻る