〜探求する彷徨い人と、達観した癒しの眠り…


「もう、どうしたらいいかわかんねぇよ…」

苦痛に顔をゆがめて、吐き捨てるように彼はつぶやいた。
その苦しみを和らげるために、
私のところへ来ているのだということは知れていた。
私は、何もいわずに、彼に寄り添っていた。
彼自身が、吐き出すべきものを吐き出しきらなければ、
何を言っても届かないのは、わかっていたから。

うつむいたままの姿勢で、彼は動きを止める。
膝の上で握られた拳は、相当な力が込められているのか、
白く、血の気がなくなっていた。
涙をこらえでもするように、彼はじっとうつむいていた。
その顔は、苦痛にゆがんだままだ。

「かんがえすぎ」

そっと、彼の頬に手を伸ばし、なんでもないように私は言った。
なんでもないように。だって、実際、なんでもないことなのだから。
そっと、彼の顔を上向かせる。
不安をたたえた瞳が、私の顔をとらえる。

「いきることなんて、カンタンなんだから」

いちばん艶やかな、一番暖かな、計算尽くの微笑みを浮かべて、
優しく、優しく、彼を包む。
ただ、その傷を、痛みを、苦しみを、和らげるために…

いきることなんて、かんたん。
ただ、いきることなんて、かんたん。
それを、受け入れることが難しいだけ。
ただ生きるだけなら、簡単。

静かに、彼の寝顔を見下ろしながら、
やわらかな髪のさわり心地を楽しんで。

目が覚めたら、この人は、また、ゆくのだろう。
やわらいで、小さな棘になった痛みを持ったまま。
それでも、ただ生きるだけの生に、納得できずに。
何を求めたらいいのかもわからないまま、
様々なものの意味を求めて………

「結局は、ただ生きるだけ。
いきるコトなんて、カンタン…」

安らかな寝顔に、ささやきかける。
私は、求められているのでもなく、
ただここにいるだけ。
ただ、生きているだけ。



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