「たとえば、ね。
あたりまえに、なんにもなく一日が終わる。
本当は、それで十分なはずなんだ。
世の中には、ムダなものが多すぎるよ。」
草の上に直接ぺたんと座り込んで、
沈んでいくお日様を見ながら、
さっきまでベソをかいていたジェスク坊やは、
傍らにうずくまる猫のタゥに、話しかけた。
「うん。そうだね。
でも、人間の世界には、ムダなものが溢れているのさ。
・・・たとえば、パンケーキ。」
ゆっくりと、顔を上げながら、タゥが言った。
「バターとはちみつの?」
「そう。そのバターとはちみつ。
僕らは、パンケーキにバターもはちみつもいらないけど、
人間は、バターもはちみつもなくちゃダメなんだ。」
「そりゃぁそうだよ。
だって、その方が断然おいしいじゃないか。」
まだ拗ねたように頬を膨らませて、ジェスク坊やは言う。
「うん。だから、さ。
僕らは、パンケーキが食べられることが大事なんだけど、
人間は、パンケーキがおいしいことが大事なんだ。
そうやって人間の世界には、ムダなものが溢れているのさ。」
「ふぅん・・・・・・・・・」
納得いかない様子のジェスク坊やを、タゥが得意そうに見上げると、
坊やは居心地悪そうに口を開いた。
「・・・もう、帰ろう?
ママが夕食を用意しているよ。
今日はチキンだって。
照り焼きもいいけれど、シチューもいいよね。」
「ふしゅ」
気を取り直したように立ち上がって振り返ると、
可笑しそうに鼻を鳴らして、タゥが続く。
「僕は、チキンもいいけど、魚も好きだな。」
二人揃って夕暮れを、並んで歩いてお家へ帰ると、
ママは、ふたりの夕食をそっくりおんなじように用意していて、
その日もふたりは、揃っておいしく夕食を食べた。
一緒に眠って、一緒に起きて、また一緒の日が昇る。