見上げた空は、鮮やかな藍。
うっすらと、線を引く雲。
そして、月。
いつから、あの月は、
あんなにも遠く、
しかし、離れることなくあるのだろう。
夕暮れの、まだ白い空に、
染み込むように顔を出す、
真っ赤な、満月の記憶。
深夜の、静かな空に、
一面に広がるかのように浮かぶ、
純白の、月光の記憶。
晴れた朝の、西の空に、
別れを告げるように、
白く、かすれる月の記憶。
すぅっと、解き続ける夜風と、
やわらかに、包み続ける、
宵月の、記憶。
あの月は、いつから、
この頭上を、塞がなくなったのだろう。
空を覆うように、
手を伸ばせば届くように、
この頭上を、塞がなくなったのだろう。
今宵、ふと、足を止めて、
見上げた月は、
いつの間にか遠く、
しかし、それでも、
離れるわけではなく。
役目を終え、
私の歩みを、見守るように。
遠く、天空へ。
けれども、離れずに。
あの月が、空にあるうちは、
私は、答えを変えることすら、
できないかもしれない。
そんな、決意とも意地ともつかない
思いを、抱えたまま。
それでも夜風は、解き続け、
その度に私は、解き放たれる。
だからこそ、なおのこと、
私は、まだ、変わらないだろう。
見上げた空は、やわらかな藍。
薄く線を引き、流れる雲。
そして、月。
もう、この手など届かない、
高みにありながら、
それでも、離れることのない、
あの、まるい、
月。