コン、コン。
手のひらの上の、
小さな丸い、真っ白なタマゴは、
指先で、2、3度小突くと、
微かに、ふるふると身震いする。
「今日は、何になるんだ?」
もう飽きたというように、
うんざりした風を装いながら、
心の底は、疼いている。
朝日が、目覚めを導く時間だ。
「キョウハ、イイオテンキ?」
タマゴがちいさな声を出す。
電子音にも近いような、
特徴のない声。
「あぁ、よく晴れてるさ。
ちょっと風はあるけどな。」
口元が弛みそうになるのを押さえながら答えると、
返事と共に、タマゴに小さなひびが入る。
「ジャあ、おソラのおさんぽニいク。」
内側から膨らむものに耐えかねて、
タマゴにヒビが広がる。
ぴしぴしと、微かな音を立てながら、
小さなヒビの全てがつながり…
ぱしん
こなごなに、砕けた殻の中に、
とうめいな、翼を持って。
「きょうは、おそらをおさんぽする。」
舌っ足らずで、小さな、高い声を聞いて、
高い空に溶け込む姿を見送った。
俺は今日も、無関心を装って、
微笑みかけそうになるのを押さえ込む。
手のひらの上には、小さなタマゴ。
タマゴは、今日もまた生まれ変わる。