〜夜明けと暖かな風の朝…




あの人は、あたしの元を去った。

納得済みのこと。
今は、まだ、少し淋しいけれど、
いずれは…


そう思ったら、あたし自身のこの想いが、
いつまで残るものなのか、無性に気になって、
目の前に取り出して、日がな一日眺めてみてた。

それは、微かに光ったり、
日の光や部屋の明かりを反射しながら、
時々、震えるように脈打って、
そうして静かになって…

そんなことを、繰り替えしながら、
それは変わらず、そこに在った。


この想いは、いつまで残るだろう。
この気持ちは、いつ消えてしまうのだろう。

考えるたびに、それは微かに震え、
色合いを変え、ぐるぐると流れるように光った。

この想いを、いつまで持てるだろう。
この気持ちを、いつ手放すのだろう。


そうしているうちに日が暮れて、
そうしているうちに、いつの間にか眠ってしまって、
電話の音で、目が覚めた。


「ねぇねぇ、遊びに行こうよ。」

明るい日射しと、友達の声。
まだ目覚めない頭で条件反射。
生返事でOKして、
何を着ていこうかと、ぼんやり考えて…

そこでやっと、思い出した。


昨日一日、何にも変わらず在ったそれは、
指先ほどの大きさに縮んで、
プラスチックほどの輝きに褪せて、
ぴくりとも動かないみたいに、
昨日の場所に、転がっていた。


ちょっと残念な気もしたけれど、
やっぱりあたしは、
それでもあたしのまんまなんだなと、
なんだか、やけに納得して、
それはそれで嬉しくなって。

放っておいたら、消えてしまいそうだったから、
チェーンを通して、首からぶら下げて、
一番新しい(あの人には見せられなかった)服を着て出かけた。


いつだって、夜も冬も明けるのを知っているから。


首のチェーンが、微かに音を立てる。
ただそれが嬉しかった、晴れた休日。




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