ボクの目の前に立った
「それ」は言った。
『音楽か、キミかを、消さなければならない』
ボクはただそこにいた。
「それ」は繰り返した。
『音楽か、キミかが、消えなければならない』
「どうして?」
ときいても、同じように繰り返す。
「それ」は、何度でも繰り返し言った。
『音楽か、キミかを、消さなければならない』
その目を見なければ、ボクは、
ボクが選ばなければならないのだということに、
気づけなかったと思う。
「ボクが、選ぶんだね?」
『音楽か、キミかが、消えなければならない』
「それ」の声は、風になって、
ボクの耳から、体中に流れた。
いつだって、旋律は、
ボクを溶かすほどに魅力的だから。
「じゃあ、ボクが消えるよ。」
そう決めて、目を閉じたら、
「それ」の声をかき消して、
ボクのセンリツが、体中を駆けめぐった。
ボクの全てに、音楽が流れる。
ボクの全ては、あらゆる音になって、
バラバラにほどけて、流れていった。
さらさらと流れて、響いていった。
真っ白な月が、照らす夜に、
こうしてボクは、音楽になった。