「最後に振り返ったときにはね、
くっだらない人生だったなぁて、思うと思うよ。」
にっこり笑ってそういうと、
こびとは、呆気にとられてあたしを見上げた。
心の隅でちょっとだけ、してやったりと思いながら、
じゃあねと言おうとしたときに、やっと我に返って聞き直す。
その仕草が、あんまりかわいくて、
ちょっとだけ、負けそうになる。
≡願い事ですよ。願い事っ。≡
≡何でも叶いますよ?≡
ちっちゃな体で、精一杯手足をぱたぱたさせて叫んでいる姿がかわいくて、
じゃあお願い。と、いいたくなるのだけれど、
残念ながら私には、本当に願うことがない。
≡本当に、なーーーんにもないんですか?≡
≡今のまんまで満足なんですか?≡
「満足…かどうかはわからないけれど…」
がくっと、こびとが崩れるように脱力する。
「具体的に不満なことって、ないしねぇ…
とりあえず今のところ楽しいし。
なんにしても、やってみるしかないなってのが正直なとこだし。」
≡願いは、ないと?≡
いくらか不安そうに、こびとが確認する。
首を傾げたその姿が、あんまり頼りなくて、
そのまま消えてしまいそうだった。
「だって、今、何か願っても、
きっとなんの意味もないもの。」
ちょっとだけ、こびとが心配で不安になりながら、
精一杯笑って答えた。
まだ、このまま、自分で行ってみたいから。
願うくらいなら、その分の時間、その分のわずかな労力でも、
進むことに使いたいから。
≡わかりました。≡
こびとは、少し淋しそうに、
けれど、満足そうに笑って、帰っていった。
「最後の最後、その瞬間に振り返って、
くっだらない人生だったなぁって、思うと思うよ。
でも、最後のその瞬間までは、振り返らないから、
このまま行くなら、振り返らなくて済むから、
だから、だいじょうぶ。」
半分はこびとに、
半分は、自分に言い聞かせるように。
小さな声でつぶやいて、
「よしっ」と、かけ声をかけてから、
あたしはまた、歩き出した。