***** 「ねぇ、お嬢さん、 空の色は、どうして青なのか、知っていますか?」 晴れた夜。 道化は、どこからともなくやってきては、 他愛ない話をして、笑いながら話をして、 いつとも知れず去っていた。 「光の屈折がどうとかって話?」 窓枠にもたれて、彼を見上げて、 のんびりと、半分くらいは上の空で、 夢見心地に会話を楽しむ。 「ふふふ…いいえ。」 道化は、いつも、楽しそうに笑う。 「昔の人が、 あの色をアオと名付けたからですよ。」 真っ白な手袋をはめた、 すらりと伸びた手で、 白く光る月の横を、指差しながら。 「あぁ、今日も綺麗な空だ。 明るい、真っ白な光の、碧い空だ。」 その頃には、私はもう、 すっかりこの時間が気に入っていて、 普通なら、馬鹿にしているとも思えるような、 道化の、悪戯めいた他愛ない話を、 いつも笑って聞いていた。 そして、白い光の月を見る彼の目に、 悲哀の色が隠っていることにも、 私は気付き始めていた。 *****