***** その日私は、冷たくなった秋の風にも構わずに、 窓を開け放して月を眺めていた。 何もする気になれず、ただ惚けたように、 真っ白な月を見ていた。 惹き付けられるように、 吸い寄せられるように… 「こんばんは。」 「…っ!?」 降って湧いたかのような声と、 その姿と、彼の立っていた位置 ー何もない、虚空ー と。 全てに驚いて… 「お嬢さん。」 …驚いて、いるうちに、 無意識に月へと伸ばしていた私の手を取ると、 道化は、深々とお辞儀をするように恭しく、 手の甲に口づけをした。 *****